親の入院後の実家じまい|現実と備え

親が突然倒れ、入院して施設で暮らすことになる。家族にとって、それは心の準備が追いつかない出来事です。昨日まで当たり前に暮らしていた実家が、ある日を境に「もう戻れない場所」になることがあります。
実家じまいとは、親が住まなくなった家を今後どうするか決め、家財道具の整理、不動産の確認、契約の解約、解体や売却、相続の手続きなどを進めていくことです。単なる片づけではなく、家族の記憶と現実的な負担が重なる、とても大きな作業です。
あるご家庭では、父親が倒れる前まで飼っていた犬の里親探しから実家じまいが始まりました。幸い、犬は新しい飼い主のもとで安心して暮らせるようになりました。しかし、実家の問題はそこで終わりません。築年数の経った広い家、大量の家財道具、施設に入る父親の私物、借地の返却、解体費用。家族は、一つひとつ現実的な判断を迫られていきます。
この記事では、親の入院や施設入居をきっかけに始まる実家じまいについて、家族が直面しやすい問題と、生前整理・遺品整理を通じて今から備えられることをお伝えします。
親の入院後に始まる実家じまいとは?
実家じまいは「家を片づけるだけ」ではありません
実家じまいは、家の中を空にするだけの作業ではありません。親が住まなくなった家を、今後どのように扱うのかを家族で決めていくことです。
売却するのか、解体するのか、貸すのか、相続するのか。土地が借地であれば、地主へ返す必要がある場合もあります。そこには、家具や衣類の処分だけでなく、契約書の確認、名義の確認、親族との話し合い、費用の準備などが関わってきます。
あるご家庭の実家は、祖父の代から続く築年数の古い家でした。かつては三世代で暮らしていた広い家も、近年は高齢の父親が一人で暮らす場所になっていました。父親が倒れて入院し、退院後は施設へ入ることになったため、家族は実家じまいを進める必要に迫られます。
健康でも時代が過ぎれば実家じまいは始まります

実家じまいは、親が亡くなった後にだけ起こるものではありません。親が生きていても、病気やけが、認知機能の低下、介護施設への入居によって、家に戻れなくなることがあります。
この場合、遺品整理ではなく、生前整理に近い形で家の整理を進めることになります。生前整理とは、ご本人が生きているうちに、自分の意思に基づいて持ち物や書類を整理することです。
ただし、親が生きているからこそ難しい面もあります。服や家具、日用品をどこまで処分してよいのか。施設へ持っていく物は何か。本人に確認できるのか。家族は、現実的に整理を進めなければならない一方で、親の気持ちも大切にしなければなりません。
空き家が増える社会で起きていること

実家じまいは多くの家族に関係する問題です
総務省の令和5年住宅・土地統計調査では、全国の空き家数は900万戸、空き家率は13.8%となり、過去最高とされています。2018年から空き家は51万戸増えています。
| 確認したい社会背景 | 公的データ | 家族に関係すること |
|---|---|---|
| 空き家の増加 | 2023年の空き家は900万戸、空き家率13.8% | 実家を放置すると、管理・売却・相続の負担が大きくなりやすい |
| 相続登記の義務化 | 相続で不動産取得を知った日から3年以内の申請が義務 | 実家の名義を放置しにくくなっている |
| 生前贈与の制度変更 | 2024年1月1日以後の贈与は、相続税の計算で加算される対象期間が相続開始前7年以内へ延長 | 財産の移し方は早めの確認が必要になる |
このデータからわかることは、実家じまいが一部の家庭だけの悩みではなくなっているということです。親が高齢になり、一人暮らしになり、入院や施設入居をきっかけに家が空く。こうした流れは、これからさらに多くの家庭で起こる可能性があります。
空き家は放置すると負担が大きくなります
空き家になった実家は、誰も住んでいなくても管理が必要です。雨漏り、庭木の繁茂、害虫、近隣への影響、防犯面の不安など、時間が経つほど問題は増えやすくなります。
国土交通省は、空家等対策の推進に関する特別措置法に関する情報を公表しており、管理不全空家等や特定空家等に対する措置についても示しています。管理が不十分な空き家は、行政から指導や勧告などを受ける場合があります。
実家は思い出の場所です。しかし、誰も住まないまま時間が過ぎると、思い出だけで守ることが難しくなります。だからこそ、親が元気なうち、家族が動けるうちに、今後の扱いを話し合っておくことが大切です。
一人暮らしの親が倒れたときに家族が直面すること
最初に必要になるのは生活を止める作業です
親が倒れて入院すると、病院や介護施設の手続きに目が向きます。しかし同時に、実家に残された生活の後始末も必要になります。

一つひとつは小さな作業に見えても、同時に発生すると大きな負担になります。仕事や子育てをしながら実家へ通う家族にとっては、時間的にも精神的にも大きな重荷になります。
実家じまいは、一気に終わる作業ではありません。まずはガスや電気、水道などの契約を確認し、施設へ持っていく物を選び、残された家財道具の扱いを決めていく必要があります。目の前のことを一つずつ判断していく作業だと言えるでしょう。
ペットの行き先は早めに考える必要があります
親が一人暮らしでペットを飼っている場合、入院や施設入居によって、ペットの世話を誰がするのかが急な問題になります。
あるご家庭でも、父親が倒れる前まで犬を飼っていました。家族は飼い主を探すのに苦労しましたが、里親が見つかり、犬は安心できる環境で暮らせるようになりました。
ペットは物ではありません。命ある存在です。そのため、遺品整理や生前整理の作業だけで解決できる問題ではありません。家族、親族、知人、動物保護団体、行政窓口などに早めに相談し、継続して世話ができる環境を探すことが大切です。
施設に移った親の物をどう整理するか?

「処分しなければ進まない」と「勝手に捨てられない」の間で悩みます
親が施設へ入ることになっても、実家には衣類や家具、日用品がそのまま残っていることがあります。施設へ持っていける物もありますが、すべてを持っていくことはできません。家には戻れない状態でも、親はまだ亡くなっていません。
この状況では、家族はとても難しい判断を迫られます。処分しなければ実家じまいは進みません。しかし、本人の物を勝手に捨てることには抵抗があります。
服や家具は、単なる物ではありません。その人の生活や記憶が染み込んだものです。だからこそ、本人が判断できるうちに、残したい物、施設へ持っていく物、家族に渡したい物、処分してよい物を話し合っておくと安心です。
生前整理は本人の意思を守るためにあります
生前整理は、物を減らすためだけの作業ではありません。本人の意思を残し、家族が迷わず判断できるようにするための準備です。
「この服は施設に持っていきたい」「この写真は残してほしい」「この家具は処分してよい」「通帳や保険証券はここにある」。こうした情報があるだけで、家族の負担は大きく変わります。
生前整理をしておくと、家族は「これでよかったのだろうか」と悩む時間を減らせます。親の意思を尊重しながら実家じまいを進められるため、後悔も少なくなりやすいと言えるでしょう。
大型家具・古い家電・衣類の進め方

昭和の家には大きな家具が残りやすいです
築年数の長い実家には、大きな家具が残っていることがよくあります。婚礼ダンス、食器棚、応接セット、古いエアコン、重たい家電、押し入れいっぱいの布団や衣類。昔の家は家族の人数も多く、物を長く大切に使う暮らしが一般的でした。
実家じまいの経験談でも、大型家具や古い家電の処分が大きな負担になりやすいことはよく語られています。特に古いエアコンや、2階から搬入した大きなタンスのように、簡単には運び出せない物は、処分費用や作業費が高くなりやすいものです。
物によっては、リサイクルできる場合もあります。反対に、年式や状態によっては処分費用がかかる場合もあります。思い込みで判断せず、複数の見積もりを取って確認することが大切です。
分け方を決めると作業が進みやすくなります
家の中の物を一気に整理しようとすると、心も体も疲れてしまいます。まずは大きく分けることから始めると、作業は進みやすくなります。
- 施設へ持っていく物
- 家族が残したい物
- 本人に確認する物
- 売却や譲渡を検討する物
- 処分する物
- 重要書類や貴重品
この分け方を家族で共有しておくと、「誰かが勝手に捨てた」という不満を防ぎやすくなります。特に写真、手紙、日記、賞状、記念品などは、金銭的価値よりも感情的価値が大きいものです。処分の前に、家族で確認する時間を持つことが大切です。
借地・解体・費用の注意点

借地の実家は契約内容の確認が欠かせません
実家が借地に建っている場合、家族が自由に土地を使い続けられるとは限りません。地主から土地の返却を求められたり、建物を解体して更地にして返す必要があったりする場合があります。
借地とは、建物を所有するために他人の土地を借りている状態です。土地そのものは家族の所有物ではないため、建物をどうするか、土地をどのような状態で返すかは、契約内容によって変わります。
借地の実家じまいでは、次の確認が重要です。
- 借地契約書が残っているか
- 地主との取り決めはどうなっているか
- 建物を解体して返す必要があるか
- 解体費用を誰が負担するか
- 返却の期限があるか
- 境界や近隣との問題がないか
契約書が見つからない場合や、昔の口約束が関係している場合は、家族だけで判断しない方が安心です。必要に応じて、不動産会社、司法書士、弁護士、自治体の相談窓口などに確認することが大切です。
解体費用と家財処分費は早めに見積もりを取ります

実家じまいで大きな不安になりやすいのが費用です。家財道具の処分、建物の解体、家電リサイクル料金、運搬費、庭木の伐採費、書類手続きの費用など、実家じまいでは複数の費用が発生します。
自治体によっては空き家の解体補助制度がある場合もありますが、金額や条件は地域によって異なります。利用できるかどうかは、必ず自治体へ確認する必要があります。
費用を把握するためには、早めに複数の業者から見積もりを取ることが大切です。「家財道具の処分費」と「建物の解体費」を分けて確認すると、どこにどれだけ費用がかかるのかが見えやすくなります。
売れない実家と再建築不可物件とは?
再建築不可物件は売却が難しくなることがあります
実家を売ろうとしたとき、初めて「この家は建て替えができない」とわかることがあります。これが再建築不可物件です。再建築不可物件とは、今ある建物を壊したあと、新しい建物を建てられない、または建て替えに大きな制限がある物件を指します。
国土交通省の資料では、建築物の敷地は、原則として幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければならないと整理されています。
私道であっても道路として認められているものもあれば、そうでないものもあります。この違いによって、建て替えや売却のしやすさは大きく変わります。見た目だけでは判断できないため、役所の担当窓口や不動産の専門窓口で確認しておくと安心です。
実家の状態は早めに確認しておくと安心です
実家じまいで大切なのは、「その家がどのような不動産なのか」を早めに知っておくことです。実家が売れると思っていたのに、建て替えが難しい物件だった。土地が自分たちの所有ではなく借地だった。名義が祖父母のままだった。このようなことは、実際に売却や解体を進めようとしてからわかることがあります。
確認したい内容は、次の通りです。
- 土地と建物の名義
- 借地か所有地か
- 接している道路の種類
- 建て替えができるか
- 境界がはっきりしているか
- 抵当権などが残っていないか
これらは、親にいきなり「亡くなった後の家をどうするか」と切り出す前に、子ども世代だけで調べ始められる部分もあります。情報を整理してから話し合うことで、親に不安を与えすぎず、現実的な相談がしやすくなります。
相続登記と生前贈与で確認したいこと
相続登記は義務化されています
実家じまいでは、不動産の名義確認がとても重要です。法務省によると、2024年4月1日から、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが法律上の義務になりました。正当な理由がないのに申請しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記がされないまま時間が過ぎると、祖父母の名義のまま実家が残っていることがあります。その状態でさらに相続が重なると、相続人が増え、話し合いが難しくなります。
実家じまいをしようとしたときに、名義が古いままだと、売却や解体の前に相続人全員の確認が必要になる場合があります。手続きが複雑になる前に、登記事項証明書を確認しておくと安心です。
生前贈与の制度変更も確認が必要です
国税庁は、2024年1月1日以後の暦年課税による贈与について、相続税の課税価格に加算される対象期間が、相続開始前7年以内に延長されると説明しています。
これまで「毎年110万円までなら贈与税がかからない」と聞いたことがある方もいるかもしれません。しかし、贈与税がその年にかかるかどうかと、相続税の計算で過去の贈与が加算されるかどうかは、別の確認が必要です。
税金の話は、家族構成、財産額、贈与の時期、不動産の有無によって判断が異なります。「なんとなく節税になるらしい」という理解だけで進めるのは危険です。実家や預貯金を動かす前に、税理士や税務署などに確認することが大切です。
親族間トラブルを防ぐためにできること
実家じまいは「誰がやるのか」で揉めやすくなります

実家じまいで大きな負担になりやすいのが、親族間の話し合いです。誰かがやらなければならないのに、誰も引き受けたがらない。長男だから、近くに住んでいるから、時間がありそうだからという理由で、特定の人に負担が偏ることがあります。
実家じまいの経験談では、親族間の調整が大きな負担になったという声も少なくありません。家を守りたい人、売りたい人、関わりたくない人、費用を出したくない人。それぞれの思いが違うため、話し合いが長引きやすいのです。
実家は、単なる不動産ではありません。親の暮らし、祖父母の記憶、子どもの頃の思い出が詰まっています。だからこそ、合理的に決めようとしても、感情が追いつかないことがあります。
親に話すときは、責める形にしないことが大切です
親に実家じまいの話をするのは、とても難しいことです。「亡くなった後の家はどうするの?」と急に聞かれると、親は自分の人生を片づけられているように感じるかもしれません。
最初から家族全員で集まり、結論を迫るような話し合いにすると、親が責められているように感じたり、話がまとまりにくくなったりすることがあります。まずは、親が一番話しやすい家族が、穏やかに切り出す方が安心です。
最初の話し合いでは、結論を急がないことが大切です。「もし入院が長くなったら、家の管理はどうしたい?」「施設に入ることになったら、何を持っていきたい?」「この家を将来どうするのが安心だと思う?」というように、今後の暮らしを一緒に考える形で切り出すと、親も受け止めやすくなります。
生前整理で今できること
まずは話し合い、次に書類をまとめます
生前整理は、いきなり家の中を空にすることではありません。最初に行うべきことは、親の意思を聞くことです。
確認しておくと安心なことには、次のようなものがあります。
- 実家を将来どうしたいか
- 売却や解体をしてもよいか
- 誰かに住んでほしいか
- 残したい物は何か
- 施設へ持っていきたい物は何か
- ペットを飼えなくなったとき誰に頼みたいか
- 通帳や保険証券、不動産書類はどこにあるか
これらを一度に決める必要はありません。お正月やお盆、通院の付き添い、介護サービスの相談など、家族が集まりやすい機会に少しずつ話しておくと、負担が少なくなります。
書類の場所がわかるだけで家族は助かります
実家じまいでは、物の整理だけでなく、書類の整理がとても重要です。通帳、印鑑、保険証券、年金関係の書類、不動産の権利書、登記識別情報、借地契約書、介護保険関係の書類などは、いざというときに必要になります。
どこに何があるのかわからないまま親が入院すると、家族は家中を探すことになります。重要書類が見つからなければ、手続きが止まってしまうこともあります。
書類を一か所にまとめ、家族に保管場所を伝えておくだけでも、生前整理として大きな意味があります。これは、親の財産を奪うためではなく、親の意思と生活を守るための準備です。
遺品整理・生前整理との向き合い方
遺品整理はご遺族の負担を軽くするためにあります
遺品整理は、亡くなった方が残した物を、ご遺族が整理する作業です。そこには、悲しみ、迷い、後悔、感謝など、さまざまな感情が重なります。
一方で、実家じまいには期限や費用が関わることもあります。借地を返さなければならない。家を解体しなければならない。相続登記を進めなければならない。家族は悲しむ時間も十分にないまま、現実的な判断を求められることがあります。
遺品整理や生前整理は、医療や介護そのものではありません。日常的な掃除や収納代行とも異なり、ご遺族やご本人の気持ちに配慮しながら、残された物を整理し、必要な物と手放す物を分けていく作業です。
当サービスでは、死後に残されたご遺族のための遺品整理、そしてご本人が元気なうちに進める生前整理を支援しています。心理的な負担と物理的な負担の両方を少しでも軽くし、家族が後悔を抱えにくい形で整理を進められるようにお手伝いします。
今できる準備が、家族の後悔を少なくします
親の入院や施設入居は、突然訪れることがあります。そのとき家族は、医療、介護、住まい、ペット、実家の管理、相続、費用など、多くの判断を同時に迫られます。
だからこそ、まずは親子で話し合うことが大切です。次に、書類の場所を確認します。そのうえで、家の中の物を少しずつ分け、実家の名義や土地の状態を確認していきます。
実家は、家族の思い出が詰まった大切な場所です。しかし、誰も住めなくなった後は、管理や費用、相続の問題が現実として残ります。大切な場所だからこそ、放置せず、元気なうちから向き合っておくことが必要です。
生前整理と遺品整理は、物を捨てるためだけの作業ではありません。本人の意思を尊重し、残される家族の負担を減らし、これからの暮らしを整えるための準備です。無理に急ぐ必要はありません。まずは家族で「この家をこれからどうするか」を話し合うことから始めると安心です。